ことばと、そのことばが指示している物や事との関係を、「地図と現地」の関係にたとえることがあります。
「リンゴ」と聞けば、私たちはあの果物を想い起こします。けれども「リンゴ」ということばは、
赤くて丸いそして甘酸っぱいあの果実「そのもの」では決っしてありません。
また、大きくても小さくても、赤くても黄色でも、すべて「リンゴ」で片づけてしまいます。
色名も同様で、「赤」という色名は、強烈な力をもって迫ってくるあの色を思い出させますが、
あの色「そのもの」ではありませんし、明暗濃淡さまざまな赤をさして使われます。
また、地図にもさまざまな種類のものがあります。五分の一の地図は厳密につくられていますが、
観光地図のようにわかりやすく感情をかきたてられるけれども、
方向や距離は正確でないものもあります。色の表示も同様で、X Y Z 表色系のように厳密に、
しかもすべての色を指示する人工的な表現方法もあります。
しかし、伝統的な色名による表現は観光地図に多少近いところがあります。
なじみやすく、感情的な意味を含んでいます。
けれども、本当の〇〇の色はどの色?と問われると困る場合もあります。
観光地図が名所旧跡以外を無視しているように、
名前の付けられていない色もたくさん残っています。
出所:光琳社出版株式会社/ネイチャ-・プロ編集室
身の周りのさまざまな事物のなかで、人間はどのようなところに眼をつけて、
色名を作りだしてきたのか?また外国の色名もさまざまな事情が異なっても
案外と共通の発想で色名が似通っていることがあります。
色名と事物との関係を通して、地球の自然の多彩さ、古来人びとが色によせた想い、
人類が蓄積してきた文化の豊かさを感じずにはいられません。
WithFOREST Vol.2